ジェルトロン開発者・田中啓介のブログです。

2017年6月13日火曜日

お客様優先の判断の難しさ

早くも台風1号が発生したというニュースを見て台風の対応を意識しなければならない季節になったと感じた。もう10年以上前の東京出張の帰りの出来事である。その日は夕食を交えた会議に出席し、最終の新幹線で京都へ、京都から普通列車で園部まで帰りそこから自家用車で自宅へ戻る予定をしていた。東京を時間通り発車したものの次第に雨が強くなり新横浜を過ぎるころには豪雨となり、小田原の手前で徐行運転になりついに小田原駅で一時間以上も停車し、名古屋に到着したのは定刻の2時間1分遅れであった。(ご存知のことと思うが2時間以上の遅れになると特急券は全額払い戻しとなる)その後、名古屋を出て岐阜羽島近くに来た時アナウンスが入った。「只今列車の遅れを取り戻すために速度を速めて運行しておりますので、京都の到着は定刻の1時間59分遅れの見込みです。到着後京都からの連絡の列車はございませんのでこのまま終点の新大阪まで行っていただき、この列車を列車ホテルといたしますので、始発の列車までお待ちいただくようご案内申し上げます」との内容に、私は特急券の払い戻しを回避するために名古屋~京都間を標準より2分スピードアップすることを考えたのだと思った。しかし名古屋と同じように2時間1分遅れで京都に着いてくれれば約5千円の特急券の払い戻しを受けることができ、これを使ってタクシーで帰宅できる乗客も多いはずだ。私も京都の到着時間が午前1時30分なのでタクシーで園部まで戻れば会社の朝礼に間に合うことができる。

そこで早速車掌に速度を上げて2分早く京都に到着する意味を尋ねた。すると「少しでも早く到着することが大切であるとの判断です」と言うので「接続列車があるならその考え方は成り立つが、今回の場合それが当てはまらないので名古屋~京都間を標準の速度で運行し2時間1分遅れで京都に着くのが乗客にとってはありがたい、JRの立場になれば特急券を払い戻したくないということは理解できるが、もしあなたが乗客の立場なら午前1時半という時間において2分早めるという判断は正しいと思うか」と尋ねた。車掌は返答に窮していたので、「すぐに運転手と指令所に連絡を入れて2時間1分遅れで京都に着くように乗客から要望があると伝えて欲しい」と言った。車掌室の前で待つこと数分、車掌が出てきて「名古屋と同じく京都には2時間1分遅れでの到着予定に変更いたしますので京都駅到着後、駅で特急券の払い戻しの手続きを行って下さい」と答えた。その時私の周りには成行きを心配して集まっていた十余名の乗客が一斉に「よっしゃ!良かった!」と手を叩いて喜んだ。

その様子を見て車掌からも少し安堵の笑顔がこぼれた。この笑顔にこそ人間の善行の本質が存在すると思う。お客様優先の判断こそがお客様から信頼を頂き、自らが幸せを実感できるのであって、利益を追求することを第一に考えるようでは商人としてあまりにも心寂しい人生となってしまうと思う。

組織の利益や目先の金儲けに命を懸けるのではなく、人を喜ばすことに命を懸けることの大切さに気付かなければならないと思うのである。
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