ジェルトロン開発者・田中啓介のブログです。

2017年9月11日月曜日

盲目で車いすのミュージシャン㊦

前回に引き続いて盲目で車いすのミュージシャン山下純一さんについてお伝えします。いくつもの障がいという現実をしっかりと受け止め、全力で自分の限界を広げる生き方を続けられている中で、私がとても驚いたのがプロとしての徹底実践ということ。ブルースハープというハーモニカのプロ奏者としては致命的な障がいと言っても過言ではないのが握力がほとんど無いという現実。握力が無いからハーモニカを握るということができない、どのような状態かといえば、手首が内側に折れて手のひらが腕にくっついているという状態で手と腕の間にハーモニカを包み込んで固定して頭を動かして舌を絶妙に使いながら素晴らしい音を創り出している。「数年前は、手首はもう少し動いていたよね。あれからまた手首が動かなくなったの?」と訊ねてみた。すると山下さんは「中途半端に曲がったままの手首ではハーモニカを包み込めなくて空気が漏れてしまい思うような音が出せない、だから自分で手首を折ったんですよ。そしてやっとイメージ通りの音が出せるようになったんです。でも日常生活においては不便なことが多くなりました」とさらりと答えられた。私はこの一言にゾッとするような凄いプロの魂に触れた気がしたのである。自ら日常生活における障がいを増やしてもブルースハープの道を究め、聴く人々に喜んで頂こうとする生き方に心底感動させて頂いた。

そして山下さんは最後に「悲しいと感じることがあるんです」と話し始めた。「それは人から期待されないことです。私が障がい者であるということで、気を遣ってくれているからだとは思うのですが、些細な作業を伴うことは殆ど依頼してくれない。健常者にとっては些細なことでも『山下さんにはできないでしょうから』と決めてかかられる。この私でも出来ることはたくさんあるのです。人の役に立つこともたくさんやってみたいと考えています」と話してくれた。

私自身も人に期待されて頼まれごとを頂いた時、どこか嬉しさを感じ、経験したことのないことでも何とか期待に応えようと工夫して取り組もうとする。そして自分の殻を破ることができるのだと思うと、後輩や従業員等ご縁があって接する皆さんに公平に自分の殻破りのチャンスを創り出すことが大切だと実感した。

人の役に立つことを実践し、その行為に感謝され、それを素直に自分の喜びとして幸せを実感する。人間はやはり人を喜ばすことに最も幸せを感じる生き物であるということを忘れてはならないし、それこそが生きる目的であると思う。

人生には様々な困難や障害が起こってくるが、どんなことがあろうとも生きる目的を忘れてはならないという山下さんの思いをとても重いメッセージとして受け止めさせて頂いた。



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