ジェルトロン開発者・田中啓介のブログです。

2018年2月19日月曜日

寝返りの正しい理解

 私たちは睡眠中の体の動きについて単純に「寝返り」という表現をしますが、果たして寝返りとはどのような動きを指すのか、なかなか定義自体が難しいのです。敷き寝具(睡眠具)の業界においても非常に曖昧な解釈がなされており、各メーカーによって寝返りを定義する定規が不明確なのが現状です。その実例として、十数年前に女性の生理用ナプキンのテレビコマーシャルで「人は一晩に34回寝返りをする…」と表現し、さらにある敷き寝具メーカーでは「自社商品を使用すると一晩に10回の寝返りが2回に減る…」と表現しているのです。どちらも専門医の指導の下に表現しているにもかかわらず、34回と10回では3.4倍の違いがあるわけです。わかり易い表現をすれば1mの定規を30㎝というようなものなのです。このように寝返りというものは非常に曖昧なまま表現されており、一般的な解釈ですと仰臥(仰向け)から90度横に向くことを寝返りと考えている人が多いのが現状です。しかし、例えば介護の分野においては「仰臥の状態で仙骨部分に発生した血行障害を左右どちらかに向きを変えて血行障害を解除すること」を寝返りと定義しています。具体的に体の向きが何度傾けばいいのかではなく、自力で血流を確保できるだけの体の動きができればいいということです。現在の介護認定制度の問題点は、このようなところにも存在しており、曖昧な定規によって判定している限りは不公平が発生し、介護保険の要介護度にも大きな影響を及ぼすことになってしまっているのです。

  さらに、新生児の成長過程における「寝返り」については介護分野とは定義が異なっており、「身体を自分で仰臥から側臥にしてなおかつ下側の肩を抜いて伏臥になること」と定義している場合が多いのです。これはまさしく仰臥(仰向け)から伏臥(うつ伏せ)に180度向きを変えることを意味しています。要するに同じ「寝返り」という言葉でも対象者によってその解釈は大きく異なるのです。

  また寝返りを言葉として使われるのは「味方が背いて敵につくこと」であり、真反対の180度逆の立場に立つことであることを考えると、そもそもその語源は仰臥から伏臥になることであったといえます。とすると、睡眠中に仰臥から伏臥に180度向きを変えながら寝ている人はほんのわずかしかいないし、またその回数は極めて少ないことは明らかですから、現在の一般的な寝返りの解釈に誤りがあることを認めないわけにはいかないのです。

  以上のことから、この「寝返り」という曖昧な言葉を定規として使用している限り、国際的な学会で通用し難いことの危険性を感じ、私は2005年の日本睡眠環境学会において、「寝返りの定義が曖昧である限り、今後は睡眠研究分野と敷き寝具(睡眠具)の業界に於いては『体動(体すべての動きであり、どんなに曖昧な寝返りも体動に包括される)』の回数を基本定規としてとらえることが大切である」と提案させていただきました。これにより、その後は体動の回数を定規として研究開発を進めていくことが多くなってきています。

私たちが日常、何の疑問も持たずに使っている言葉も、何を伝えることを目的としてこの言葉を使うようになったのかを知ることにより、正しい言葉の使い方が理解しやすくなることが多分にあると思うのです。
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