ジェルトロン開発者・田中啓介のブログです。

2017年8月22日火曜日

盲目で車いすのミュージシャン㊤

先日ある勉強会に講師として「盲目で車いすのミュージシャン」の山下純一さんに来鶴頂いた。山下さんはブルースハープというハーモニカのミュージシャンである。

小学校低学年で歩けなくなり、22歳で全盲になり、時期を同じくして肩・腕・手首の関節が動き難くなり、現在の握力はほとんど無いに等しい。これらの障がいがあっても演奏可能な楽器をと考えハーモニカ奏者を目指した。そしてプロミュージシャンとして活動を始めて数年たった32歳の時には耳が聞こえにくくなり、3年に亘り手術を繰り返し治療のため音楽活動から離れた。その間に音楽以外のことで自分への挑戦を続けるため四国の金毘羅さん参りを行い、785段の石段を「立膝歩き(写真)」で達成した。(この時の膝用の靴を弊社のジェルトロンで作製させていただいた。)健常者でもあの石段を登るのはかなりしんどいことであるのに、それを立膝歩きで達成されたということはかなり無謀な自分との戦いに勝利した瞬間だったと思う。

山下さんに「徐々に見えなくなっていくときの不安や恐怖をどのように克服されたのか?」とストレートな質問した。

「うっすら見える状況の中で何とか見ようとすることに苦しさを感じたので、何とか見ようとして苦しむのではなく、見えない現実を受け入れることを決めました。すると気持ちが楽になったのです。そして完全に見えなくなった時に新しい発見があり、それは接してくれる人の心の本音が見えるようになったということです。」との答えが返ってきた。

治療法が無い様々な障がいを恨んだり嘆き悲しみ続けるのではなく、その現実を受け止め未来につながる新たな生き方や対処方法を見出すことの大切さを教えていただいた。考えてみてもどうしようもないことにくよくよするのではなく、前を向いて生きる新たな一歩を踏み出すことにエネルギーを使わなくてはならないと思うのである。さらに目で見えていることがすべて本質的真実ではないという現実に気づかせて頂けたことは、山下さんならではの健常者に対する尊いメッセージであると感じた。



次に「障がいによるいじめを受けたことはなかったのか?」と質問すると、「たくさんのいじめを経験しました。健常者からだけでなく病院等の施設では、いじめてくる先輩と隣同士のベッドに寝ていたこともあり、当然逃げたり隠れたりできない状況の中で楽しく生きるための解決策を考えました。それはいじめてくる相手を笑わせるということです。笑わせることができたらその相手と友達になることができる。友達になると相手は私に対して人として優しく接してくれるようになるのです。」と答えてくれた。いじめてくる相手

のすべてを受け入れなければ笑わせようという気持ちにはなれない。いじめてくる相手との戦いを選択せず友達になることを考え、その最良の形として相手を笑わせるという考え方に到達した山下さんの心の広さに改めて感動させていただいた。

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