ジェルトロン開発者・田中啓介のブログです。

2019年4月19日金曜日

復興オリンピックという名の違和感

4月11日、世界貿易機関(WTO)の上級委員会は、韓国による福島など8県産の水産物輸入禁止措置を不当とした「一審」の紛争処理小委員会(パネル)の判断を破棄した。日本は逆転敗訴となった。上級委は、パネルの判断はWTOの検疫関連協定の解釈に誤りがあると指摘。韓国の措置について「必要以上に貿易制限的」としたり、日本を不公正に差別したりしたものとはいえないとした。また、韓国政府が消費者保護のためにどのような措置を取れば適切かは判断できないとし、食品で許容できる放射線レベルなど安全性の問題でも見解を示さないとした。

私はこの判断を受けて急遽14日に安倍首相は福島第一原発に飛んだと考えている。

多くの日本人がWTOの判断を否定的に捉え韓国を非難した。私も心情的に日本人ならこれらの反応は正しいのではないかとも思ったが、ここで今一度冷静に福島の現状から今回のWTOの判断を考えてみたい。

まず、WTOは安全性について見解を示す立場ではないことを踏まえ、しっかりとした判断を行ったと考えている。では何を判断基準としたのかと考えた時、あくまでも私的な推測であるが、東京電力福島第一原発の現状から見た水産物への影響であり、それはズバリ汚染水が最も大きな問題であると考えている。

東京電力は福島第一原発で保管する処理済みの汚染水が100万トンを超えたと発表した。事故から8年がたった今も汚染水は増え続け、東電の計画では敷地内の保管容量は2年以内に限界に達する。時間切れが迫る中、政府や東電はその処分方法についていまだ決定していない。なし崩しで海への排水が始まるのではないかと地元の人々は警戒を強めている。また、この8年間に海への流出事故は複数回発生しており、決して安全の確保ができているとは言えない。

さらに、なぜ保管容量の計画上限を2年以内として発表しているのかを考えると、東京オリンピックが終わるまでは何としても保管しなければならないということだと思うのである。その理由は安倍首相が東京オリンピック誘致の際、海外メディアからの汚染水に関する質問に対して、「汚染水は完全にシールドされているから絶対に安全である」と明言したことであり、日本政府はこの不実の言葉を形式的にも守らなければならないということである。さらにお世辞にも適材適所とは言えない失言のデパートともいえるような桜田議員をオリンピック担当大臣に任命するくらい無責任な安倍政権に対して私は大きな不安を感じずにはおれない。

オリンピックという大きな祭りが終わった後に表面化してくる様々な問題を考えると、かなり強固な心構えが我々国民にも必要になると思うのである。約40年前になるが私自身ある原発の排水路近くで冬でも夏の魚のキスが釣れるということで釣りに行った。驚いたことに12匹釣った内の2匹の背骨が曲がっていた。原発との因果関係を証明することはできないが、何かが起こっているという恐ろしさを感じずにはおれなかった。この表現は風評被害を招きかねないとの、お叱りの声が聞こえてきそうだが、「人間も地球環境の一部である」という私の持論からすると、事実を隠蔽することはしたくない。

話を戻して、改めてWTOの判断を地球的視野に立って考えてみると、この判断を真摯に受け止めることが重要であり、安易に否定したり非難することは出来ないと思う。現鈴木大臣は「オリンピックの成功が復興の後押しになる」とコメントしたが、順序が逆で「復興オリンピック」という名に恥じない真の復興を目指すべきが最優先であると考えるが、皆さんはどうお考えになるだろうか。

(日本褥瘡学会・日本睡眠学会等会員、聖母の小さな学校・連携懇話会委員)